第3章 代数
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3.1 大小関係と絶対値
任意の2つの実数$ a, bについて、以下のどれか1つだけが成り立つ(3.1)
$ \begin{cases}a\ は\ b\ より大きい\ (a>b) \\ a\ は\ b\ より小さい\ (a<b) \\ a\ と\ b\ は等しい\ (a=b)\end{cases}
これは公理である
虚数にはこのような性質は存在しない
「$ aは$ b以上である($ a>bまたは$ a=bである)」を高校までは$ a\geqq bと書いたが、大学では$ a\geq bと書く
実数$ aが$ 0<aのとき、$ aは正であるという
実数$ aが$ a<0のとき、$ aは負であるという
大小関係にはさらに以下の公理がある
すなわち任意の実数$ a, b, cについて
$ a<b\ かつ\ b<c\ ならば\ a<c \qquad (3.2)
$ a<b\ ならば\ a+c<b+c \qquad (3.3)
$ 0<a\ かつ\ 0<b\ ならば\ 0<ab \qquad (3.4)
これから以下の式(3.5)〜式(3.13)のような定理が導かれる
$ a<b \Leftrightarrow 0<b-a \qquad (3.5)
つまり、等式と同様に移項ができる
$ \Leftrightarrowは「同値」とか「必要十分」と呼ばれる関係を表す どちらか片方が成り立てばもう片方も必ず成り立つような関係
$ a<b\ かつ\ 0<c\ なら,\ ac<bc \qquad (3.6)
$ a<b\ かつ\ c<0\ なら,\ ac>bc \qquad (3.7)
つまり、正の数を両辺にかけても不等号は変わらないが、負の数を両辺にかけると不等号は逆転する
$ a \neq 0 \Leftrightarrow 0<a^2 \qquad (3.8)
つまり、$ 0以外の実数は、2乗すると正になる
$ 0<1 \qquad (3.9)
$ 0<a\Leftrightarrow0<1/a \qquad(3.10)
つまり、逆数は符号を変えない
$ 0 < ab \Leftrightarrow (0<a\ かつ\ 0<b)または(a<0\ かつ\ b<0) \qquad (3.11)
つまり、積が正なら、2つの実数の負号は同じ
$ ab<0\Leftrightarrow(0<a\ かつ\ b<0)または(a<0\ かつ\ 0<b) \qquad(3.12)
つまり、積が負なら、2つの実数の符号は異なる
$ 0 \leq a\ かつ\ 0 \leq b\ のとき,\ a \leq b \Leftrightarrow a^2 \leq b^2 \qquad (3.13)
つまり、2つの実数が$ 0以上なら、それぞれ2乗しても大小関係は変わらない
数値は左から小さい順に並べるのが直感的なので、$ <を使うように心がけ、$ >はなるべく使わないのがよい
任意の実数$ aについて、その絶対値$ |a|を以下のように定義する
$ 0<aのときは$ |a|:=a
$ a<0のときは$ |a|:=-a
$ |0|:=0
要するに「正の数はそのままで、負の数は負号を外したもの」
この定義から以下の定理が導出される
$ 0 \leq |a| \qquad (3.14)
$ |-a| = |a| \qquad (3.15)
$ |ab|=|a||b| \qquad(3.16)
$ \left|\frac{a}{b}\right|=\frac{|a|}{|b|}\ (ただしb\neq0とする)\qquad(3.17)
2つの実数$ a,bについて、$ |a-b|を、$ aと$ bの距離という 絶対値は「その数と$ 0との距離」でもある
いずれ、実数以外ではむしろ「絶対値は$ 0(原点)からの距離」と考える方がスムーズ
3.2 階乗と場合の数
$ 1以上の整数$ nについて、$ 1から$ nまでの自然数を全て掛けたものを、$ nの階乗と呼び、$ n!と書き表す(定義) $ n!:=1\times2\times3\times\cdots\times(n-1)\times n \qquad (3.18)
$ n=0のときは式(3.18)は使えないので、別途、$ 0!は$ 1とする(定義)
式(3.18)より、$ nが$ 2以上のとき$ n!=(n-1)!\times nが成り立つ
これを$ n=1についても成り立つと無理やり仮定すると、$ 1!=(1-1)!\times1つまり$ 1!=0!\times1=0!となる
つまり$ 0!=1は間接的に式(3.18)の拡張になっている
負の整数の階乗は考えない
例3.1
a,b,cという3つの文字を(繰り返し使うことなく)並べる順番のパターンは何通りあるだろうか?
書き出すと6通りが見つかる
abc,acb,bac,bca,cab,cba
書き出さない方法
最初は3文字のうちどれでもいい
次の字は残りの2文字
最後は残りの1文字
$ 3\times2\times1=3!=6
例3.1のように考えれば、異なる$ n個のものを並べる順番は、$ n!通りある
例3.2
a,b,c,d,eの5文字から、重複を許さずに3文字を選んで並べる順番は、何通りか
$ 5\times4\times3=60通り
異なる$ n個のものから$ m個を選び出して並べる順番のことを順列といい、その数を$ _n\mathrm P_mと書く 例3.2のように考えれば、$ _n\mathrm P_mは、以下のように$ m個の自然数を掛けたもの
$ _n\mathrm P_m=n\times(n-1)\times\cdots\times(n-m+1)\qquad(3.19)
この右辺は、$ \frac{n\cdot(n-1)\cdots(n-m+1)\cdot(n-m)\cdots\cdots2\cdot1}{(n-m)\cdots2\cdot1}
つまり$ n!/(n-m)!に等しいから、次式が成り立つ
$ _n\mathrm P_m=\frac{n!}{(n-m)!}\qquad(3.20)
例3.3
今度はa,b,cという3つの文字を繰り返し使うことも許して、2つ並べる順番を考える
全部書き出すと9通り
書き出さないで答を得る方法
最初の文字はどれでもよい(3文字)
次の文字もどれでもよい(3文字)
$ 3\times3=3^2=9
同様に考えれば、異なる$ n種類の記号を、繰り返しOKで$ m個並べる順番のパターンは$ n^m通り存在する
異なる$ n個のものから$ m個を選び出す場合(並べたりはしない)の数を$ _n\mathrm C_mと書こう
まず、$ _n \mathrm P_mは$ n個から$ m個を選び出して(そのパターンは$ _n\mathrm C_m通り)、次にその$ m個を順に並べる(そのパターンは$ _m\mathrm P_m = m!通り)と考えることもできるから
$ _n\mathrm P_m ={}_n \mathrm C_m\times m! \qquad (3.21)
となる、したがって、
$ _n\mathrm C_m=\frac{_n\mathrm P_m}{m!}\qquad(3.22)
であることがわかる。ここで式(3.20)を使うと
$ _n\mathrm C_m=\frac{n!}{m!(n-m)!}\qquad(3.23)
式(3.23)は$ m=0についても考えることができる
式(3.23)を改めて$ _n\mathrm C_mの定義とし、これを二項係数と呼ぶ 例3.4
10種類の花から3種類を選んで花束を作る場合、選び出す場合の数は、以下のようになる
$ _{10}\mathrm C_3=\frac{10!}{3!(10-3)!}=\frac{10\times9\times8}{3\times2\times1}=120
問47 $ n,mは自然数で、$ n>mとする。次式を証明せよ
$ _n\mathrm C_m = _n\mathrm C_{n-m} \qquad (3.24)
3.3 多項式
数(定数)や文字(変数)の積で表された式を単項式という 例えば、$ 3xや$ 2xyや$ abc^2
単項式は多項式の一種
例えば、$ 1+3x+x^2や$ x+y+2xy
一方、$ \frac{1}{1+x}や$ \sqrt{1+x+x^2}は多項式ではない
これらはどんなに変形しても有限この単項式の和や差だけでは表せない(商や平方根が必要だ)から
多項式の中で、文字(変数)の掛け算が最も多い項について、その掛け算の回数をその多項式の次数という 次数$ nの多項式を$ n次多項式(もしくは$ n次式)という
文字(変数)が複数出てくるときは注意が必要
$ x^3y+x^2y+1\qquad(3.25)
$ xと$ y両方を同時に着目すれば、この多項式は4次式
しかし、特定の文字に着目してそれだけを変数とみなし、それ以外の文字を定数とみなして次数を考えることもできる
$ xだけに着目するならば3次式
$ yだけに着目するなら1次式
どの文字に着目するかは、問題の切り口や考え方によってケースバイケース
例3.5 $ ax^2+bx+cについて$ xを変数として$ a,b,cを定数とみなせば、これらは$ xに関する2次式である
多項式どうしの足し算、引き算、掛け算は、いずれも多項式になる
しかし、多項式を多項式で割って多項式にならないことがある
たとえば$ x+1を$ x^2+3で割ったら$ (x+1)/(x^2+3)となるが、これは多項式ではない
3.4 二項定理
$ nを任意の自然数とする。多項式$ (a+b)^nを展開することを考える
たとえば
$ (a+b)^2=a^2+2ab+b^2
$ (a+b)^3=a^3+3a^2b+3ab^2+b^3
$ (a+b)^4=a^4+4a^3b+6a^2b^2+4ab^3+b^4
このようなとき、各項の係数はどういう規則で決まるか
どの項も$ aまたは$ bを合計$ n回掛けたものになっている
したがって、書く展開後の各項は、$ 係数\times a^mb^{n-m}の形をしている($ mは$ 0以上$ n以下の整数)
$ a^mb^{n-m}の項は、$ n個の$ (a+b)から$ m個の$ aと$ n-m個の$ bを選びだした積であり、その選び方の数は$ aの選び方の数、すなわち$ _n\mathrm C_m通り存在する
$ aを選んだ時点で$ bは自動的に決まるから、$ aの選び方だけを考えればよい
つまり、$ a^mb^{n-m}の項の係数は$ _n\mathrm C_mである
要するに
$ (a+b)^n= {}_n\mathrm C_na^n + {}_n\mathrm C_{n-1}a^{n-1}b + {}_n\mathrm C_{n-2}a^{n-2}b^2 + \cdots {}_n\mathrm C_{n-m}a^{m}b^{n-m} + \cdots + {}_n\mathrm C_1ab^{n-1}+{}_n\mathrm C_0b^n \qquad (3.26)
これは式(3.24)を使って以下のように書くこともできる
$ (a+b)^n= {}_n\mathrm C_0a^n + {}_n\mathrm C_1a^{n-1}b + {}_n\mathrm C_2a^{n-2}b^2 + \cdots {}_n\mathrm C_ma^{n-m}b^{m} + \cdots + {}_n\mathrm C_{n-1}ab^{n-1}+{}_n\mathrm C_nb^n \qquad (3.27)
3.5 平方完成
$ xに関する2次式$ ax^2+bx+c(ただし$ a\neq0とする)を適当な定数$ b', c'を用いて
$ a(x+b')^2+c'\qquad(3.28)
平方完成は2次式を扱う上で、基本的かつ強力なテクニック
平方完成のやり方
$ aで$ x^2と$ xの項をくくる
$ ax^2+bx+c=a\left(x^2+\frac{b}{a}x\right)+c\qquad(3.29)
()の中の$ xの係数を取り出して半分にし、とりあえず$ xとその数の和の2乗を考える
$ \left(x+\frac{b}{2a}\right)^2=x^2+\frac{b}{a}x+\left(\frac{b}{2a}\right)^2\qquad(3.30)
これを変形すると次のようになる
$ x^2+\frac{b}{a}x=\left(x+\frac{b}{2a}\right)^2-\left(\frac{b}{2a}\right)^2\qquad(3.31)
これを使えば式(3.29)は次のようになる
$ ax^2+bx+c=a\left(x+\frac{b}{2a}\right)^2-a\left(\frac{b}{2a}\right)^2+c\qquad(3.32)
3.6 代数方程式と複素数
たとえば以下は代数方程式
$ x^2-x-2=0\qquad(3.33)
$ x^2+y^2=1\qquad(3.34)
代数方程式が成り立つような文字(変数)の値を、代数方程式の解または根と呼ぶ 式(3.33)の解は$ x=-1,2
$ nを自然数とする。次数$ nの多項式からなる代数方程式を「$ n次方程式」という
式(3.33)は2次方程式
一般に代数方程式は、多項式を因数分解し各因数を$ 0とすることによって解く(解を求める)ことができる
たとえば式(3.33)は
$ x^2-x-2=(x+1)(x-2)=0\qquad(3.35)
式(1.31)
因数分解の結果、同じ因数が複数回現れることもある
$ x^2-2x+1=0\qquad(3.36)
$ (x-1)^2=0なので$ x=1だけが解(根)
変数が1つだけの2次方程式なら、因数分解しなくても公式を使って解ける
$ ax^2+bx+c=0\qquad(3.37)
の解の公式を導こう。ただし$ a, b, cは実数とし、$ a\neq0とする
(1) 与式の両辺を$ aで割ってから平方完成し、次式を導け
$ \left(x+\frac{b}{2a}\right)^2=\frac{b^2-4ac}{4a^2}\qquad(3.38)
(2) これを変形し、次式を導け
$ x+\frac{b}{2a}=\pm\frac{\sqrt{b^2-4ac}}{2a}\qquad(3.39)
(3) これを変形し、次式(2次方程式の解の公式)を導け
$ x=\frac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a}\qquad(3.40)
この公式(3.40)は、1変数の2次方程式ならどんなものも解いてくれる
$ D:=b^2-4ac\qquad(3.41)
係数$ a,b,cが全て実数のとき、判別式$ Dの正負によって、2次方程式の解の様子は大きく異なる
$ x=\frac{-b\pm\sqrt{D}}{2a}\qquad (3.42)
もし$ D=0なら
$ x=\frac{-b}{2a}\qquad(3.43)
つまり式(3.37)の解は1つだけ
もし$ D\neq0なら
$ x=\frac{-b+\sqrt D}{2a}またはx=\frac{-b-\sqrt D}{2a}\qquad(3.44)
となり、解は2つ出てくる
このときもし$ D>0なら式(3.44)は両方とも実数でOKだが、問題は$ D<0のとき
$ D<0なら$ \sqrt Dは実数ではなくなってしまう
2乗するとマイナスの実数になるような数
$ i^2=-1\qquad(3.45)
あるいは$ i=\sqrt{-1}
虚数単位の実数倍
たとえば$ 2iとか$ -\sqrt3i
純虚数は2乗したらマイナスの実数になる
たとえば$ (2i)^2=2^2 \times i^2 = -4
実数と純虚数の和で表される数
たとえば$ 1+2i
$ D<0のとき、$ \sqrt Dは純虚数になり、そのとき式(3.44)は両方とも虚数になる
例3.6
$ x^2+3x+5=0\qquad(3.46)
$ D=3^2-4\times1\times5=-11<0なので、この法定s機は2つの虚数の解を持つはず
実際、式(3.40)を使えば
$ x=\frac{-3\pm\sqrt{11}i}{2}\qquad(3.47)
2つの実数$ a,bと虚数単位$ iを用いて$ a+biと書ける数
ガウスは次数が$ nの1変数代数方程式は($ nは自然数とする)、重解を含めて、複素数の範囲で$ n個の解を持つことを証明した 3.7 恒等式
多くの方程式は、変数がある特定の値(解)のときにだけ成り立つ ところが、いつでも成り立つ方程式もある
$ x^2-1=(x-1)(x+1)は$ xがどんな値でも必ず成り立つので恒等式
ある式が恒等式になることを「その式は恒等的に成り立つ」ということもある
恒等式については等号を$ =のかわりに$ \equivで表記することもある
3.8 数列
数をならべたもの
$ (a_n)=(1,3,5,7,9,\cdots)\qquad(3.48)
$ (b_n)=(2,4,8,16,\cdots)\qquad(3.49)
数列を表すときはこのように$ (\quad)を使う
高校数学では$ \{\quad\}を使うが、これは集合を表す記号でもあり、紛らわしい $ a_nや$ b_nは、それぞれの数列における$ n番目の数(第$ n項)
何ら断らなければ$ 1から始まると考えてよいが、問題設定によっては$ 0や負の整数などから始まることもある
式(3.48)の数列の初項は$ a_1=1、式(3.49)は$ b_1=2
式(3.48)の第$ n項は
$ a_n=2n-1\qquad(3.50)
このように数列の第$ n項を添字$ nの式で表したものを、数列の一般項という 一般項を簡単な式で表すことができる数列もあるがそうでない数列もある
しかし、数学では一般項を何らかの4季で表現できる数列をよく扱う
3.9 等差数列と等比数列
ある数列$ (a_n)が全ての$ nについて
$ a_{n+1}=a_n+d\qquad(dは定数) \qquad (3.52)
を満たすとき、この数列を公差$ dの等差数列という(定義)
たとえば式(3.48)は、公差$ 2の等差数列
公差$ dの等差数列$ a_nの一般項は
$ a_n=a_1+(n-1)d\qquad(3.53)
$ a_n=a_0+n\ d\qquad(3.54)
式(3.53)は初項が$ a_1の場合
実際、$ a_1=a_0+dを使って式(3.53)の$ a_1を消去すれば式(3.54)になる
ある数列$ a_nが全ての$ nについて
$ a_{n+1}=r\ a_n\qquad(rは定数)\qquad(3.55)
を満たす時、この数列を公比$ rの数列という(定義)
たとえば式(3.49)は、公比$ 2の等比数列
公比$ rの等比数列$ a_nの一般項は、
初項が$ a_1の場合: $ a_n=a_1\times r^{n-1}\qquad(3.56)
初項が$ a_0の場合: $ a_n=a_0\times r^{n}\qquad(3.57)
式(3.52)や式(3.55)のように、数列の、隣接するいくつかの項の間に成り立つ関係式のことを、その数列の漸化式という
3.10 単調増加・単調減少・収束・発散
数列をつくる数が項順に次第に大きくなる
たとえば、$ (1,2,3,4,5,\cdots)\qquad(3.58)
数列$ (a_n)が単調増加する、とは、いかなる$ nについても
$ a_n<a_{n+1}\qquad(3.59)
が成り立つ、ということ
$ a_n\leq a_{n+1}\qquad(3.59)
数列をつくる数が項順に次第に小さくなる
たとえば、$ (2,1,0,-1,-2,-3,-4,\cdots)\qquad(3.60)
数列$ (a_n)が単調減少する、とは、いかなる$ nについても
$ a_n>a_{n+1}\qquad(3.61)
が成り立つ、ということ
$ a_n\geq a_{n+1}\qquad(3.61)
無限個の数からなる数列について、項数が進むにつれて、値がどのようになっていくのか
例3.9
一般項が$ 1-(0.1)^nと書ける数列
$ (0.9,0.99,0.999,0.9999,\cdots)\qquad(3.62)
は単調増加するが、項数が進むにつれて増加は次第にゆっくりになり、限りなく$ 1に近づいていく
この例のように、ある数列が、項数が進むにつれて有限な一定値$ aに限りなく近づく場合、その数列は$ aに収束するという 例3.10
$ (1,2,3,4,\cdots)という等差数列は、単調増加する数列であり、項数が進むにつれて、値は果てしなく大きくなっていく(無限大) したがってこの数列は収束しない、すなわち発散する数列である
3.11 数列の和
数列の和
数列を構成する数を、順番に足していくこと
例3.11
数列$ (a_n)=(1,3,5,7,9,11,\cdots)について、$ 3から$ 9までの和は、
$ 3+5+7+9=24\qquad(3.63)
数列の和を表すのに便利な記号がある
すなわち、数列$ (a_1,a_2,a_3,\cdots)について、第$ p項から第$ q項までの和$ a_p+a_{p+1}+\cdots+a_qのことを(ただし$ p,qは整数で、$ p\leq qとする),
$ \sum_{n=p}^q a_n \qquad (3.64)
と書く(定義)
たとえば式(3.63)は
$ \sum_{n=2}^5 a_n \qquad(3.65)
と書いてもよい
$ a_nのかわりに、$ nに関する具体的な数式を与えることもある
たとえば式(3.63)では、$ n番目の項(一般項)は$ 2n-1と表すことができるから、式(3.63)、すなわち式(3.65)は
$ \sum_{n=2}^5(2n-1)\qquad(3.66)
と書くこともできる
ここで注意
$ nという変数名は最終的な結果には現れないから、$ nを他の記号、たとえば$ sで書き換えて、式(3.66)を
$ \sum_{s=2}^5(2s-1)\qquad(3.67)
と書いても構わない。ただし,
$ \sum_{s=2}^5(2n-1)\qquad(3.68)
と書いてはならない。この式では和に関する添字と、数列の一般項を表すための変数である$ nが一致していないから値が定まらない
$ aを定数とすると
$ \sum_{n=1}^ma=a+a+\cdots+a\qquad(a\ の\ m\ 回の和)
したがって次式が成り立つ(当たり前)
$ \sum_{n=1}^{m}a=ma\qquad(3.69)
問58
二項定理、式(3.26)は次式のように書ける
$ (a+b)^n=\sum_{k=0}^n{}_n\mathrm C_{n-k}a^{n-k}b^k\qquad(3.70)
式(3.27)を$ \Sigmaを使って書け
$ (a+b)^n=\sum_{k=0}^n{}_n\mathrm C_ka^{n-k}b^k\qquad(3.86)
$ \Sigmaには次のような大事な性質がある
任意の数列$ (a_k),(b_k)と、任意の実数(定数)$ \alphaについて、次の2つの式が成り立つ(定理)
$ \sum_{k=1}^n(a_k+b_k)=\sum_{k=1}^na_k+\sum_{k=1}^nb_k\qquad(3.71)
$ \sum_{k=1}^n\alpha a_k=\alpha\sum_{k=1}^na_k\qquad(3.72)
要するに、$ \Sigmaのなかの足し算は$ \Sigma同士の足し算にバラせるし、$ \Sigmaの中の定数倍は$ \Sigmaの外に出せる
3.12 数学的帰納法
最も簡単な等差数列$ (1,2,3,\cdots)の和は、次式で与えられることがわかっている(定理)
$ \sum_{k=1}^nk=\frac{n(n+1)}{2}\quad(nは任意の自然数)\qquad(3.73)
どのように証明するか
具体的な$ nの値について計算すればその$ nについては成り立つことがわかる
任意の$ nにも成り立つことを証明するのに使える論法が「数学的帰納法」 式(3.73)は以下のように証明できる
まず$ n=1のとき式(3,73)は、
$ 左辺=1,\ 右辺=1\qquad(3.74)
であり、たしかに左辺=右辺が成り立つ
次にある自然数$ Nについて$ n=Nのとき式(3.73)が成り立っていると仮定しよう。つまり、
$ \sum_{k=1}^Nk=\frac{N(N+1)}{2}\qquad(3.75)
であると仮定する
すると、$ n=N+1のとき、式(3.73)の左辺は
$ \sum_{k=1}^{N+1}k=\sum_{k=1}^Nk+(N+1) \qquad (3.76)
$ =\frac{N(N+1)}{2}+N+1\qquad(3.77)
$ =\frac{N^2+N+2N+2}{2}=\frac{N^2+3N+2}{2}
$ =\frac{(N+1)(N+2)}{2}=\frac{(N+1)\{(N+1)+1\}}{2}
これは式(3.73)の右辺で$ n=N+1としたものに等しい
したがって、$ n=N+1としたときも式(3.73)は成り立つ
つまり、「ある数で成り立てばその次の数でも成り立つ」ということがわかった
このことを使えば、先に式(3.74)において$ n=1で成り立つことを確認したから$ n=1+1=2でも式(3.73)が成り立ち、したがって$ n=2+1=3でも……というように、すべての自然数$ nについて式(3.73)が自動的に成り立つことになる
このような論法が数学的帰納法
実際に数学的帰納法を使って何かを証明するときは、上で書いた「つまり…自動的に成り立つことになる。」という記述は省略してよい
まとめると、自然数$ nに関するある式が成り立つことを数学的帰納法で証明するには
(1) $ n=1のときにその式が成り立つことを証明する
(2) ある自然数$ Nについて, $ n=Nのときにその式が成り立つことを仮定する
(3) すると$ n=N+1のときにも成り立つ、ということを証明する
という手順をとればよい
ところが、数学的帰納法をよく理解していない人は、以下のような奇妙な論法を使う
すなわち、式(3.73)を証明するにあたって
「…(前略)…
$ \sum_{k=1}^Nk=\frac{N(N+1)}{2}
であると仮定する。この$ Nに$ N+1を入れて
$ \sum_{k=1}^{N+1}k=\frac{(N+1)(N+1+1)}{2}=\frac{(N+1)(N+2)}{2}
となる…(後略)…」
要するにこの問題で式(3.75)の仮定の$ Nを単純に$ N+1に置き換えて「証明」してしまう
もしもこのような論法が許されるなら、以下のような変な話が成り立ってしまう
例3.12 任意の自然数$ nについて次式が成り立つことを証明してみよう(これは本当は成立しない)
$ \sum_{k=1}^nk=n^2\qquad(3.79)
まず$ n=1のとき式(3.79)は左辺も右辺も$ 1なので成立
次に$ n=Nのとき式(3.79)が成り立つと仮定する
$ \sum_{k=1}^Nk=N^2\qquad(3.80)
この$ Nに$ N+1を入れて
$ \sum_{k=1}^{N+1}=(N+1)^2\qquad(3.81)
したがって、式(3.79)は$ n=N+1のときも成立。したがって式(3.79)は任意の自然数で成り立つ
と言いたいとkろだが、$ n=2のときは式(3.79)の左辺は$ 1+2=3、右辺は$ 2^2=4
「証明はコミュニケーション」とまず考える
考えをいくつかのブロックに分ける
あるブロックを根拠→次のブロック
要所要所で仮定や定理、公理が根拠として必要だとわかる
問60 $ nを$ 1以上の整数、$ rを$ 1 以外の任意の実数として、以下の式を数学的帰納法で証明せよ
(1) $ \sum_{k=0}^nr^k=\frac{1-r^{n+1}}{1-r}\qquad(3.82)
$ n=1のとき
左辺$ \sum_{k=0}^1r^k=1+r
右辺$ \frac{1-r^2}{1-r}=\frac{(1+r)(1-r)}{1-r}=1+r
$ n=Nのとき与式が成り立つと仮定すると$ n=N+1のとき
$ \sum_{k=0}^{N+1}r^k=\sum_{k=0}^{N}r^k+r^{N+1}=\frac{1-r^{N+1}}{1-r}+r^{N+1}=\frac{1-r^{N+1}+r^{N+1}-r^{N+2}}{1-r}=\frac{1-r^{N+2}}{1-r}
(2) $ \sum_{k=1}^nk^2=\frac{n(n+1)(2n+1)}{6}\qquad(3.83)
$ n=1のとき、
左辺$ \sum_{k=1}^1k^2=1^2=1
右辺$ \frac{1(1+1)(2+1)}{6}=1
$ n=Nのとき与式が成り立つと仮定すると$ n=N+1のとき
$ \sum_{k=1}^{N+1}k^2=\sum_{k=1}^Nk^2+(N+1)^2=\frac{N(N+1)(2N+1)}{6}+(N+1)^2=\frac{2N^3+9n^2+13N+6}{6}
3.13 表計算ソフト